今夜は松村雄策先生がご逝去されたと知り、驚きと悲しみを感じています。
松村先生のご本は『リザードキングの墓』(1989年)に触れさせていただいて、とても親しみを感じていました。
若い頃に『リザードキングの墓』を読んだことで、強い印象を頂いていたようです。
ご逝去されたと知り、狼狽えました。
当たり前のことしか書けませんが、松村先生の安らかな旅立ちを、お祈りしたいと思います。
願わくば、そちらの世界でジム・モリソンやジョン・レノン、偉大なロック・アーティストたちと再会されますことを。
3月10日、この映画を観ました・・・
あのこは貴族
去年の2月に公開された作品ですが、公開当時、直感で非常に観たかった作品です。
じゃあ観に行ってろよって話しなんですが結局、観に行かなかったんですね
原作は山内マリコ先生の『あのこは貴族』(集英社)ですが、私は読んでいません、すんません(^_^;)
監督と脚本は岨手由貴子監督ですが、私は監督の作品は『あのこは貴族』が初めてでした。
結論から申し上げて、この作品、ホンマにめちゃくちゃ良かったです。
観たかった映画だけに期待もありましたし、最初はいきなり、イヤだなぁ~と思って、途中もかなりイヤな感じだったんですけど、そのイヤな感じも含めて素晴らしい映画でした。
ですので、もう前提として、まだ観てない方々は絶対に観てくださいって結論で、私の感想なんかどーでもいいんです。
私の感想は「まだ観てなかったら絶対に観てください」って感想ですね。
ホンマはね~、アレコレ細かくも書きたいんですがね、それもね~、やっぱり実際に観てもらうのが一番だと信じてます。
ですので、ストーリーを転載させていただきますね。
ストーリー
同じ空の下、私たちは違う階層<セカイ>を生きている――。
東京に生まれ、箱入り娘として何不自由なく成長し、「結婚=幸せ」と信じて疑わない華子。20代後半になり、結婚を考えていた恋人に振られ、初めて人生の岐路に立たされる。あらゆる手立てを使い、お相手探しに奔走した結果、ハンサムで良家の生まれである弁護士・幸一郎と出会う。幸一郎との結婚が決まり、順風満帆に思えたのだが…。
一方、東京で働く美紀は富山生まれ。猛勉強の末に名門大学に入学し上京したが、学費が続かず、夜の世界で働くも中退。仕事にやりがいを感じているわけでもなく、都会にしがみつく意味を見いだせずにいた。幸一郎との大学の同期生であったことで、同じ東京で暮らしながら、別世界に生きる華子と出会うことになる。2人の人生が交錯した時、それぞれに思いもよらない世界が拓けていく――。
私は、時岡美紀が大学を中退後、30過ぎまで「仕事にやりがいを感じているわけでもなく、都会にしがみつく意味を見いだせずにいた」ところは、ストーリーを読ませてもらってそうだったんかと理解しました。
東京に来てからの彼女は、彼女なりに生きてこれてるようで、ちなみにもっと悲惨な人なんてなんぼでもいるはずですよ。
渡邊琢磨さんの音楽、ホントに素晴らしいです。
特にエンドロールに流れる音楽には、バーッときましたね~。
これも不思議な偶然だったんですが、内田也哉子さんがなさってる音楽グループ、「sighboat」について興味をここ数日、持ってたんだけど、渡邊琢磨さんと鈴木正人さんの3人でなさってるんですね・・・。
映画の構成も素晴らしいのですが、それもまた観る時の楽しみにしてもらって・・・以下、内容に触れますので、観るご予定の方はご注意ください。
確かに現代を生きる女性の女子シネですが、思っていたよりもずっと真剣で痛切で、イヤな感じのある映画でした。
まず、映画の中のセリフで、この社会には階層があり、上流階級の家は、それを維持することに努めているし、だからヒエラルキー、階層は固定化していると語られること、そしてそれが両の側から見える形で描かれることが素晴らしかったです。
前半はとにかく、キレイごとに行ってませんな。
だから、ホントにイヤな感じで、ちょっと私は嘔吐感すらもよおした。
開始10分、正直、ホッケーマスクをかぶった大男がマチューテを振りかざして襲撃してきたらどんなに面白い映画になることだろう ―― と思ってしまったんだけど、先へ進むと自分のそんな観方も恥じました。
上流階級は上流階級で辛い ―― それにも気づいたので。
実際、私はお金持ちの良家の子でありながら、幸せでない人を知ってます。
何もお金持ちの上流階級ってだけで100パー幸せなわけがないし、特に結婚適齢期と定義された女性はホンマにきっつい。
その映画でもありますな。
『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019年)も重なります。
また、お金を稼ぐ稼がないで考えると、映画では描かれないけど、この後はどうなるかわからないよ、ってこともあると思います。
美紀の今後もどうなるのか、それはわかりません。
しかし現実、そないに甘うもない、か。
これだけは気づくべきなのは、何気ない一言でも相手の心を深く傷つけるかもしれないし、それが殺人の動機にもなりうるってことですね。
『パラサイト 半地下の家族』(2019年)にもそれがあった。
「育ちが違う」なんて、とんでもない。
しかし、そういった考えは今だにはびこっているし、日本人の頭にこびり付いている。
またそれを隠そうともしない人が政治家にまでなって威張ってるもの。
とにかく、『あのこは貴族』を観ていて、かなり不快で、その不快さは『パラサイト』にも近かったですし、グサッときましたよ、ホントに。
映画を観ていてそんなふうに感じる時 ―― 好きですね。
キャストについては作品にピッタリの方々ばかりでした。
お一人、あ~と思ったのが青木幸一郎の祖父を演じられた津嘉山正種さんです。
ケビン・コスナーやクワイ=ガン・ジンのお声でも大好きなので(´∀`*)
お祖父様役はこの世の権威の象徴みたいな感じでイヤな感じでしたけどね~。
映画は中盤、その語り口からミステリー的にも感じられて、事実が判明して行く流れもドキドキして、私は大好きでした。
地方出身の時岡美紀が、自分には持ちえないものを持っている人たちがいて、自分はその人たちのようにはなれないって知るところ、泣いたな~。
それがこの映画の特に好きなところです。
ウーピー・ゴールドバーグとシシー・スペイセクが主演した『ロング・ウォーク・ホーム』(1990年)じゃないかと思うんですが、違うかもしれませんけど、貧しい家の子のクリスマスと、豊かな家の子のクリスマスの対比が描かれてて・・・子どもの頃、それを観た時にも胸が詰まったもの。
もう、私の人生の疑問と哲学ですよね、貧富の差、階層の存在は。
それは年々、大きくなっていきます。
世の中そんなもの、しょうがない、だなんてぜんぜん思えない。
人はなぜ、こうまで差があり、そのことを人々は受け入れているのだろうか。
このことについて、私はまた書くつもりです。
山内マリコ先生の原作、そして岨手由貴子監督のお仕事でしょうけど、本当に精工で繊細で、そして複雑な作品ですよね。
そして、はぐらかされ、引っかかってしまった。
うわ~、こう来るのかなあ~とか思ってると違うんやな~(≧∇≦)
私なんかがアレですけど、岨手由貴子監督の演出が素晴らしいです。
しかし実は、そのまま帰らず暮らすのが大変そうな東京で暮らしている美紀に対しては羨望、もっと言えば妬みに近い感情を抱いたのです、私は。
映画で彼女は街に溶け込み、不満はあれど、しっかり生きている、もちろん批判などできないほどに。
そして彼女の選択がかっこよかった。
妬みと言ってアレならば憧れと換えてもええのかな。
私は何とかする人を尊敬するのですが、美紀は何とかする人で、自嘲気味に定義する東京もかっこよかったのです。
対して華子は、逆に彼女がいい家柄のお医者様のお嬢様として生きることが気の毒に感じられてしまうところもありました。
ちょっと悲惨ですよ、いろいろ気づくと。
その分、幸せになってほしいとも思うのですが・・・。
でも華子にも、とんでもなくいい友達がいますよね~。
相良逸子さん(石橋静河さん)・・・なかなかできへんよ、あんなん・・・。
ちなみに華子の好きな映画は『オズの魔法使』だそうです。
美紀を演じた水原希子ちゃん・・・前から好きな女優さんでしたが、『あのこは貴族』ではこんな演技もするのか~と驚きもありました。
ちょっとわからないところもあったんですけど、そのわからなさがさらに好きでした。
演技って物語を説明する手立てや、映画をわかりやすくする仕掛けでもあるんでしょうけど、私はそればっかりじゃつまらないと思うんですね。
「なぜこんなふうに演じるのだろう」と疑問に感じる時も大きなインパクトもあると思う。
『あのこは貴族』は女優さんたちが活躍する映画で、ホントにその女優さんたちが全員、素晴らしかったですよ。
等身大ってヤツかな、必ず東京にいるだろう誰かが表現されてて、それが私は好きでした。
でも、特に時岡美紀だけど、希子ちゃん、美人なのでね~、そこがもし、「容姿に恵まれてない女性」キャラだったら、どう見えたのかって思いました。
そうなるとテーマがまた増え過ぎるのかな。
門脇麦さんの出演作もまた観たいですね。
どの作品がいいですかね
ところで希子ちゃん・・・レオス・カラックスの映画に出てるんやね
4月1日から公開でしたかッ
ズバリ、後半にはかなり爽やかなシーンもあり・・・結末についても私はまず、キレイに終わったな~、上手く結論したな~、いいところへ行ったな~と思いました。
皮肉っぽく聞こえるかもしれないけどプロの仕事ですね。
それには大きな感動もあったんですけど、私はまた、破滅や崩壊も見たかったんですよね(>_<)
『ファイト・クラブ』(1999年)のラストのようなね・・・けどな、『あのこは貴族』でそれをやると、逆にありそうな映画になってしまうかな。
上流階級から転落みたいな・・・で、中流女性が起業で成功してて、みたいな ―― そっちの方がキレイごとか。
でも、別のラストでズド~ンとさらに落ち込むのも見たかったかな。
それこそ『パラサイト』的な・・・。
『あのこは貴族』の結末は肯定的ですね。
理想もある。
幸一郎は美紀といる時、気楽だったんだと思うけど、華子ともまた新しい関係を築けるのかもしれない、そう思います。
やっぱり上手く書けなかったので、そこは映画を観ていただきたいな。
昔、フランス革命ってものがあり、人々は王妃マリー・アントワネットを処刑したそうです。
その死刑は正しいことだったのか ―― 正しかったとは思えない。
韓国ドラマには財閥の御曹司、令嬢と庶民のメロドラマも多いけど、もちろんそんな物語を楽しむのもいいことです。
ですが、この社会の階層を受け入れ、他の誰かにへつらい、違う誰かを蔑むのなら、それは正しいとは思えないし、とても卑しいこと ―― なんだけど、じゃあどうしたらいいのか・・・私には一概に言えないけど、『あのこは貴族』にはそれぞれの解決への道が示されていると思えました。
観たかった作品ですが予想をはるかに超える傑作でした。
今日もおおきに
ごめんやす(^.^/)))
あのこは貴族
Aristocrats
아리스토크랫
东京贵族女子
2021年製作/124分/G/日本
劇場公開:2021年2月26日
配給:東京テアトル、バンダイナムコアーツ
スタッフ・キャスト
監督・脚本 岨手由貴子
原作 山内マリコ 『あのこは貴族』(集英社)
プロデューサー 西ヶ谷寿一 西川朝子 宮本綾
ラインプロデューサー 金森保
撮影 佐々木靖之
照明 後閑健太
録音 近藤崇生
整音 高田伸也
美術 安宅紀史
装飾 佐藤桃子
衣装 大森茂雄
スタイリスト 丸山晃
ヘアメイク 橋本申二
編集 堀善介
音楽 渡邊琢磨
助監督 張元香織
制作担当 柴野淳 刈屋真
キャスティング 西宮由貴
門脇麦 - 榛原華子
水原希子 - 時岡美紀
高良健吾 - 青木幸一郎
石橋静河 - 相良逸子
山下リオ - 平田里英
佐戸井けん太
篠原ゆき子
石橋けい
山中崇
高橋ひとみ
津嘉山正種
銀粉蝶
(映画.com)